『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子
「ひとそろいの実感も手応えもあるから、混乱するのね。
でも信じきれない。だからいったいこれはなんなんだろうって、
何か思ったり感じたりするたびに、そんなあほみたいなことを
思うのよ。感情みたいなのが動くたびに、白々しい気持ちと自分が
何かに乗っ取られてるような気持ちになって---気がついていなかった
だけで、じつは物心ついた時からわたしが生きてきたって思いこんで
いるものは、しょせんそんなものだったんじゃないのかって、まぁ
そんなふうに感じるってことなのよ」 わたしは肯いた。
久しぶりに夜のつめたさをあびたみたいだ。
その言葉は、どこまでも本物で、どこにでも転がっているようなシンプルな
単語の数々なのになんでこんなにも身体中に染み込んでくるんだろう。
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